
相続人の定義は、民法第886条から第895条で決まっています。
それを読むことが相続人を理解するうえで確実な道のりですが、法律は難しく書かれていて、なかなかハードルが高いですね。
このページを最後まで読めば、次のことがわかります。
- 親族・血族・姻族の違いと法定相続人
- 法定相続人の順位という考え方
- 相続人の欠格事由と推定相続人の廃除
- 相続の配分は法定相続分!?
親族・血族・姻族の違いと法定相続人の関係性について、詳しく分かりやすく説明します。
親族・血族・姻族の違いと法定相続人の関係性
大切な家族が亡くなられたら、故人の遺産を相続することになります。
遺族にとっては大切な手続きで、場合によっては相続完了までに相当の時間と労力が必要です。
でも、そもそも自分は遺産を受けとる権利があるの?
相続手続きを始める前に、まずは故人とどういう関係なら遺産を受け取れるのかを知らなくてはいけませんね。
法定相続人なら遺産を相続できる
あなたが遺産相続の対象者であるかは、法定相続人に当てはまるかによって決まります。
つまり、あなたが法定相続人の立場ならば、故人の財産を受け継ぐ権利を持ちます。
法定相続人は、故人の配偶者と一部の血族のみが該当します。
大きな分類で親族ですが、法定相続人に姻族は含まないので、ここでは配偶者と血族としています。
親族、血族、姻族の言葉の意味について説明したいと思います。
親族の定義
親族の定義は、民法第725条で次のようになっています。
六親等内の血族、配偶者、三親等内の姻族
図で見てみましょう。
これだけの人達が、あなたの親族にあたります。
血族の定義
民法では、血縁関係にある人達のことを血族といいます。
先ほどの図の①~⑥までが血族に当たります。
その血族には「自然血族」と「法定血族」があり、どちらも民法で血族として認められています。
- 自然血族
生物学上の血縁関係にある人。
結婚していない男女の子の場合、父親の認知が必要。 - 法定血族
養子縁組によって血族関係となった人。
血族の中でも、父母や祖父母などのことを直系尊属と言います。
また、子や孫などのことは、直系卑属といいます。
姻族の定義
姻族は先ほどの一覧図の通りですが、かんたんに言えば血族でない親族のことをいいます。
- 配偶者の血縁関係者
父母、祖父母、曾祖父母、叔伯父母、兄弟姉妹、甥姪 - 血族の配偶者
子の配偶者、孫の配偶者、ひ孫の配偶者、伯叔父母の配偶者、兄弟姉妹の配偶者、甥姪の配偶者
これ以外にも、配偶者の前婚の子、父母の再婚相手、子の配偶者の前婚の子など、血縁関係にない3親等内の人も姻族に該当します。
法定相続人には順位がある
続いては、法定相続人の範囲を説明します。
法定相続人は、親族の中でも配偶者や血族の一部が該当しますが、順位というものがあります。
配偶者と血族の順位
あなたと故人の関係が、下の図のような範囲に当てはまれば、法定相続人の可能性があります。
法定相続人の「可能性がある」という表現なのは、該当する人すべてに遺産が相続されるわけではないからです。
相続人には順位の概念があり、第1順位から第3順位まで存在します。
第3順位であれば第1・第2順位、第2順位であれば第1順位の人が一人でもいれば、相続人には該当しません。
ただこの中で、故人の配偶者は常に相続人という立場になります。
ほかの相続人が居ても居なくても、配偶者は常に遺産を相続する権利があるということです。
- 配偶者がすでに亡くなっている
- 相続放棄している
- 相続人の欠格事由に該当する
相続人の欠格事由については、のちほど詳しく説明します。
第1順位の法定相続人
第1順位の相続人は、「子」が該当します。
ただし、故人が亡くなった時点において、すでに子が亡くなっている場合は代襲相続します。
子のかわりに孫が相続人になります。
孫も亡くなっていれば、ひ孫が相続人になるといった具合に、直系卑属が存在する限り相続権は移行します。
代襲相続と相続の順位
代襲相続とは、例えば故人の子にAとB、Bの子にCがいたとします。
故人からすれば、Cは孫にあたります。
故人の死亡前にBがすでに死亡していた場合、第1順位はAとCが該当します。
胎児も法定相続人になる
民法第886条において、胎児でも相続権があることが決められています。
- 胎児は、相続については、既に生まれたものとみなす。
- 前項の規定は、胎児が死体で生まれたときは、適用しない。
また「子」には、養子縁組によって血族関係となった子、前婚の子、認知した非嫡出子も該当します。
非嫡出子とは、法律上の婚姻関係にない男女の間に生まれた子のことです。
しかし、血縁関係にあっても父親が認知していない場合や、養子縁組していない連れ子の場合は法定相続人になれません。
第2順位の法定相続人
もし故人に、第1順位に該当する人がいないなら、第2順位の相続人として「父母」が法定相続人になります。
第1順位の人が、すべて相続放棄した場合も、第2順位の人へ相続権が移行します。
ただし故人が亡くなった時点において、すでに父母のどちらも亡くなっていれば、直近の直系尊属が第2順位の相続人になります。
第3順位の法定相続人
もし故人に直系卑属や直系卑属がいないなら、第3順位の相続人として、故人の「兄弟姉妹」が法定相続人となります。
ただし故人が亡くなった時点において、すでに兄弟姉妹が亡くなっていれば、甥姪が代襲相続します。
この場合の代襲相続は1代限りで、甥姪の子には代襲されないので注意。
法定相続人の欠格事由と推定相続人の廃除
民法第891条から第893条では、法定相続人になれない人について決められています。
該当することは無いと思いますが、念のため載せておきます。
法定相続人の欠格事由
法定相続人の欠格事由は次の通りです。
- 故意に故人または相続について先順位もしくは同順位にある者を死亡するに至らせ、または至らせようとしたために、刑に処せられた者
- 故人の殺害されたことを知って、これを告発せず、または告訴しなかった者。
ただし、その者に是非の弁別がないとき、または殺害者が自己の配偶者もしくは直系血族であったときは、この限りでない。 - 詐欺又は強迫によって、故人が相続に関する遺言をし、撤回し、取り消し、または変更することを妨げた者
- 詐欺又は強迫によって、故人に相続に関する遺言をさせ、撤回させ、取り消させ、または変更させた者
- 相続に関する故人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、または隠匿した者
これに該当すれば、法定相続人の権利がなくなります。
推定相続人の廃除
推定相続人とは、故人が存命中の段階で、法定相続人になるだろうと推定される人のことです。
故人の生前の意思で、推定相続人を廃除でき、廃除された人は相続権を失います。
推定相続人の廃除要件は次の通りです。
- 遺留分を有する推定相続人が、故人に対して虐待をし、もしくはこれに重大な侮辱を加えたとき、または推定相続人にその他の著しい非行があったときは、故人は生前に、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求することができる。
- 故人が遺言で推定相続人を廃除する意思を表示したときは、遺言執行者は、その遺言が効力を生じた後、遅滞なく、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求しなければならない。
この場合において、その推定相続人の廃除は、故人の死亡の時にさかのぼってその効力を生ずる。
廃除されたら相続権を失いますが、代襲相続は有効です。
法定相続人への遺産の配分(法定相続分)
法定相続人への遺産の配分(法定相続分)は、民法第900条から第905条で決まっています。
法定相続分は、相続人の構成によって変わるので、その点を図解で説明します。
第1順位と配偶者の法定相続分
配偶者は遺産の2分の1、子は残り2分の1を人数で分割します。
子が2人の場合は4分の1ずつ、子が3人の場合は6分の1ずつ分割することになります。
この割合は代襲相続の場合でも同じです。
第2順位と配偶者の法定相続分
配偶者は遺産の3分の2、直系尊属は残り3分の1を分割します。
もし父が亡くなっているなら、母が3分の1を相続します。
両親が健在であれば、6分の1ずつとなります。
第3順位と配偶者の法定相続分
配偶者は遺産の4分の3、兄弟姉妹は残り4分の1を人数で分割します。
兄弟姉妹が2人の場合は8分の1ずつ、兄弟姉妹が3人の場合は12分の1ずつ分割することになります。
この割合は代襲相続の場合でも同じです。
相続財産についての注意事項
相続財産には次のものがあります。
- 現金、預貯金、有価証券
- 土地、家屋、賃借権、著作権
- 貴金属、家財家具、自動車
- 生命保険金の保険金
- 借金、ローン、未納税金
- 営業上の未払金、債務不履行
- 不法行為、損害賠償、保証債務
プラス・マイナスの財産のほかにも、相続で分割の対象とならない財産があります。
故人が加入していた生命保険の保険金は、相続の分配対象になるのかも複雑です。
遺言書で遺産の分配が指定されている場合
遺産相続ができる法定相続人について説明しました。
ここで説明したものは、遺言書がない場合の法定相続人への分配方法についてです。
故人が遺言書を残していた場合、故人の意思を尊重して相続財産は分配されます。
その場合は遺言書に指定されている、法定相続人以外の特定の親族や他人にも財産を贈られることがあります。
しかし、それでは残された家族の生活が困窮することも想定されます。
そこで相続人には、最低限の財産を相続する権利(遺留分)を主張できます。